CT Lab

第21章 光音響トモグラフィ

光で温めて音で聴く。体内で生じた音源を円弧上の検出器から再構成する(円形ラドン変換)。

これまでのトモグラフィは、体の外から放射線を当てて透過を測る(CT)か、体内のトレーサから出る放射線を測る(PET/SPECT)ものでした。光音響トモグラフィ(PAT, photoacoustic tomography)はそのどちらとも違います。光を当てて体内に音を生み、その音を聴いて画像にします。二つの物理をまたぐこの方式は、測定の幾何そのものが CT と変わり、再構成が「直線」から「円弧」へと姿を変えます。

光で温めて、音で聴く

短いパルスのレーザ光を組織に当てると、光をよく吸う分子(血液中のヘモグロビン、メラニンなど)が瞬間的に温まります。温まれば膨張し、膨張すれば圧力波、すなわち超音波が生まれます。これが光音響効果です。生じた超音波は組織の中を伝わり、被写体を囲む超音波検出器に届きます。

超音波検出器パルスレーザ光吸収体超音波光 → 熱膨張 → 音

光音響効果と検出。パルスレーザ光が組織に入り(1)、吸収体(ヘモグロビン等)が温まって膨張し超音波を放つ(2)。被写体を囲む検出器が音波を受ける(3)。光で温めて、音で聴く。

この方式のうまみは、光と音の良いとこ取りにある点です。光は吸収コントラストが桁違いに高い(酸素化・脱酸素化ヘモグロビンの区別など、分子レベルの情報を持つ)一方、組織中では強く散乱してすぐ像がぼけます。超音波は散乱が弱く深部まで直進できますが、それ自体のコントラストは乏しい。光音響は、光で「濃い」コントラストの音源を作り、その音を散乱の少ない超音波として受けることで、光の分子情報を超音波の深達性で運び出します。

測るのは円に沿った積分

再構成の観点で決定的なのは、測定信号が何の積分になっているかです。ある検出器を考えます。時刻 tt に届く信号は、音速を cc として、その検出器から半径 r=ctr = ct の位置で生じた音波です。2 次元で考えれば、検出器を中心とする半径 rr の円周上にあった音源すべてが、同じ時刻に重なって届きます。つまり時系列信号は、検出器を中心とする同心円に沿った音源の積分になっています。

g(d,t)    xd=ctp0(x)dlg(\mathbf{d}, t) \;\propto\; \int_{|\mathbf{x} - \mathbf{d}| = ct} p_0(\mathbf{x})\, dl

CT の測定が直線に沿った線積分(ラドン変換)だったのに対し、光音響は円弧に沿った積分です。これを円形ラドン変換(circular Radon transform、球面平均変換の 2 次元版)と呼びます。

CT(直線)直線に沿った積分光音響(円弧)検出器r = c·t

何に沿って積分・逆投影するか。CT(左)は直線に沿った線積分で、逆投影も直線に塗る。光音響(右)は検出器を中心とする半径 r = ct の円に沿った積分で、逆投影も同心円に塗る。積分の幾何そのものが違う。

逆投影の幾何が「直線」から「円弧」へ

CT の逆投影は、測定値をレイの直線に沿って画像へ塗り戻すものでした(第3章)。光音響の再構成も逆投影ですが、塗り戻す先が直線ではなく、検出器を中心とする同心円になります。各検出器の時系列を、対応する半径の円弧に沿って足し込むと、本物の音源があった場所では多数の円弧が交わって値が立ち上がり、それ以外では打ち消し合う。これがユニバーサル逆投影(universal back-projection, Xu & Wang 2005)です。第3章の SBP が 1/r1/r のボケを持ったのと同じく、素朴な円弧逆投影にも補正(時間微分フィルタ)が要りますが、幾何の骨格は同じです。

シミュレーション:円形ラドン変換とユニバーサル逆投影

血管を模した音源を、全周に並べた検出器で「録音」します(円形ラドン変換で時系列を生成)。それを各検出器を中心とする同心円に沿って塗り戻すと、血管が浮かび上がります。検出器の弧を狭めていくと、円弧状のストリークが背景に残り、血管がぼやけていきます。とくに、狭めた検出器群から見て「横向き」の構造 ── 音波が検出器の並ぶ方向に飛んでしまう向き ── ほど早く失われます。これは第20章の限定角度と同じ「見えない方向がある」問題が、円弧の幾何で現れたものです。

真の音源(血管)

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

ユニバーサル逆投影

WL 0.0369 / WW 0.0601右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

弧を狭めると、円弧状のストリークが残って血管がぼやける(限定ビュー)。

血管を模した音源を全周検出器で「録音」し(円形ラドン変換)、各検出器を中心とする同心円に沿って塗り戻して再構成する(ユニバーサル逆投影)。全周(360°)ではきれいに血管が浮かぶが、弧を狭めると円弧のストリークが背景に残り、検出器から見えにくい向きの構造ほど失われる。光音響は吸収コントラスト(ヘモグロビン)を写すので、血管網が典型的な被写体になる。

CT との違いと、共通点

光音響は、音源が体内にある点で PET/SPECT に似ています(放射トモグラフィ)。しかし PET が直線の LOR に沿った積分だったのに対し、光音響は円弧に沿った積分で、再構成の幾何が根本的に違います。一方で、逆投影で音源を浮かび上がらせるという発想、検出器を全周に置けないと像が崩れるという限定ビュー問題、そして欠損を圧縮センシングや深層学習で埋める研究の広がりは、CT・MRI と完全に共通です。測る物理も、積分の形も違うのに、逆問題としての骨格は同じ。トモグラフィが「ひとつの数学の多くの顔」であることが、ここでも見えてきます。

この章の要点

光音響トモグラフィは、パルス光で体内に超音波源を作り、その音を囲む検出器で受けて画像化します。光の高い吸収コントラストを、散乱の少ない超音波の深達性で運び出すのが利点です。測定信号は検出器を中心とする円に沿った積分(円形ラドン変換)で、CT の直線積分とは幾何が違い、再構成は円弧に沿ったユニバーサル逆投影になります。それでも「逆投影で浮かび上がらせる」「全周そろわないと崩れる」「欠損を事前知識で埋める」という構造は CT と共通です。次章では、試料を大きく傾けられないために生じる missing wedge を、電子線トモグラフィで 3 次元として扱います。第20章のくさびが、ここで立体になります。

参考文献

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