CT Lab

第16章 空間エンコーディングと k 空間

勾配磁場で位置を周波数に変換する。k 空間を 1 行ずつ埋めて画像が立ち上がる様子をシミュレーションで見る。

前章で得た信号には、まだ「体のどこから来たか」の情報がありません。均一な静磁場の中では、すべてのプロトンが同じラーモア周波数で歳差するからです。位置の情報を刻み込む仕掛けが勾配磁場(gradient)です。そして勾配を使った MRI の測定は、CT とは違う形で、しかし同じフーリエ変換へと戻ってきます。

勾配磁場による周波数エンコード

主磁場に、位置に比例して強さが変わる弱い磁場を重ねます。xx 方向の勾配 GxG_x をかけると、その瞬間のラーモア周波数が位置の 1 次関数になります。

ω(x)=γ(B0+Gxx)\omega(x) = \gamma (B_0 + G_x\, x)

こうすると、受信した信号を周波数分解するだけで、各周波数成分が xx 座標に対応します。読み出し中にかける GxG_x を周波数エンコード勾配と呼びます。もう一方の軸は、読み出しの前に短時間だけ勾配 GyG_y をかけ、位置に比例した位相のずれを各行に与えます(位相エンコード)。GyG_y の強さを 1 回の撮影ごとに変えながら繰り返すことで、2 次元の情報を集めます。

RFGzGyGx90°位相エンコードADCt

2DFT シーケンスの勾配タイミング(簡略)。RF スライス選択のあと、Gy で位相を、Gx(読み出し)で周波数を空間座標に対応づける。位相エンコード Gy の振幅を 1 回ごとに変え、k 空間を 1 行ずつ走査する。

k 空間

勾配が時間とともに信号へ与える位相は、勾配の時間積分で決まります。そこで、その積分を新しい座標 k\mathbf{k} として定義します。

kx(t)=γ2π0tGx(τ)dτ,ky(t)=γ2π0tGy(τ)dτk_x(t) = \frac{\gamma}{2\pi}\int_0^t G_x(\tau)\, d\tau, \qquad k_y(t) = \frac{\gamma}{2\pi}\int_0^t G_y(\tau)\, d\tau

すると、時刻 tt に受信する信号は、横磁化 m(x,y)m(x,y) の 2 次元フーリエ変換をちょうど点 (kx,ky)(k_x, k_y) で標本化した値になります。

s(kx,ky)=m(x,y)ei2π(kxx+kyy)dxdys(k_x, k_y) = \iint m(x, y)\, e^{-i 2\pi (k_x x + k_y y)}\, dx\, dy

つまり MRI が測定しているのは、画像そのものではなく、そのフーリエ変換(k 空間)の値です。勾配を操作することは、k 空間の中をペンで走査することにほかなりません。読み出し勾配は kxk_x 方向に線を引き、位相エンコードは開始する kyk_y を選びます。標準的な 2DFT では、k 空間を 1 行ずつ水平に走査して格子を埋めます。

CT の中心断面定理との再会

第4章では、CT の 1 方向の投影が物体の 2 次元スペクトルの放射状の 1 本の線に対応する、という中心断面定理を見ました。MRI はこれを勾配で直接実現しています。放射状に k 空間を走査するラジアル MRI は、まさに投影を測っているのと同じで、CT の FBP がそのまま使えます。CT と MRI は「フーリエ空間をどう走査するか」が違うだけの親戚です。

再構成は、集めた k 空間を 2 次元逆フーリエ変換するだけです。CT の FBP のようなフィルタも逆投影も要りません。標本間隔 Δk\Delta k が視野(FOV = 1/Δk1/\Delta k)を、最大値 kmaxk_{\max} が空間分解能(1/2kmax\approx 1/2k_{\max})を決めます。

画像空間xy2D FTk 空間kxky低周波高周波

画像空間と k 空間はフーリエ変換で結ばれる。k 空間の中心は低周波(全体のコントラスト)、外周は高周波(エッジと細部)。標本間隔 Δk が FOV を、最大値 kmax が分解能を決める。

シミュレーション:k 空間を埋める

真の画像(左)を 2 次元フーリエ変換した k 空間(中央)を、位相エンコード行ごとに埋めていき、その都度の逆変換(右)を見ます。ch2 のスキャンとサイノグラムの成長を思い出してください。あれの k 空間版です。中心行が入ると全体の濃淡が現れ、外周行が加わるとエッジが立ってきます。「センターアウト順」に切り替えると、走査順が中心から外へ変わり、早い段階でコントラストが決まる様子が分かります。

真の画像(PD マップ)

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

k 空間(取得済み)

WL 3.79 / WW 7.58右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

部分再構成

WL 0.502 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整
63 / 64 行

真の画像を 2 次元フーリエ変換した k 空間を、位相エンコード行ごとに埋めていく。中心行(低周波)が入った段階で全体の濃淡が現れ、外周行(高周波)が加わるとエッジが締まる。センターアウト順では早い段階でコントラストが決まる。

シミュレーション:k 空間のどこに何があるか

k 空間の一部だけを使って再構成します。「中心のみ」では低周波だけが残り、ぼけていてもコントラストは保たれます。「外周のみ」では高周波だけが残り、エッジが浮かんで平坦部は消えます。半径スライダーで境界を動かすと、コントラストと解像度がどう分担されているかが見えてきます。この「中心=コントラスト・外周=分解能」という構造は、次章以降の撮像時間短縮の鍵になります。

k 空間(採用領域)

WL 3.79 / WW 7.58右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

再構成

WL 0.551 / WW 1.10右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

k 空間の一部だけを使って再構成する。中心のみ(低周波)では、ぼけているが組織のコントラストは残る。外周のみ(高周波)では、エッジだけが浮かび平坦部は消える。両者を足して初めて元の画像になる。

この章の要点

勾配磁場はラーモア周波数を位置の関数に変え、受信信号を画像のフーリエ変換の標本にします。この測定空間が k 空間で、勾配の操作は k 空間を走査することに対応します。再構成は 2 次元逆フーリエ変換だけで済みます。k 空間の中心は低周波でコントラストを、外周は高周波でエッジと分解能を担います。標本間隔が FOV を、最大周波数が分解能を決めます。次章では、こうして得た信号のコントラストを、パルスシーケンスと TR・TE でどう設計するかを見ます。

参考文献

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