CT Lab

第17章 パルスシーケンスとコントラスト

スピンエコーの巻き戻しと、TR・TE で T1 強調・T2 強調・FLAIR を切り替えるコントラスト設計をシミュレーションで体験する。

第15章では磁化と緩和を、第16章では位置のエンコードを見ました。残るのは「どの組織差を画像に写すか」です。MRI は同じ体を撮っても、パルスの打ち方と待ち時間を変えるだけで、まったく違うコントラストの画像を作れます。CT で撮影後にウィンドウを変えるのとは違い、コントラストそのものを撮像時に設計します。その中心にあるのがスピンエコーと、2 つの時間パラメータ TR・TE です。

スピンエコー

第15章で見たとおり、90° パルス後の FID は真の T2 ではなく T2* で速く消えます。原因は静磁場 B0B_0 の不均一による「静的な」脱位相でした。静的なら巻き戻せます。

90° パルスから時間 τ\tau おいて 180° パルスを打つと、各スピンの位相が反転します。速く回っていたスピンは進みすぎた分だけ後ろに置かれ、遅いスピンは前に出ます。その後もう τ\tau 待つと、全スピンの位相がぴたりとそろい、信号がエコーとして復活します。エコーが立つ時刻をエコー時間 TE(= 2τ2\tau)と呼びます。

RF90°x180°y信号FIDエコーe^(−t/T₂)TE/2TE

スピンエコーのタイミング。90° パルス後の FID は B0 不均一で T2* に減衰するが、TE/2 で 180° パルスを打つと位相が巻き戻り、TE でエコーが再収束する。エコーの高さは真の T2 で決まる。

巻き戻せるのは静的な不均一(T2T_2')だけです。スピン同士の相互作用による真の T2 減衰はランダムなので戻せません。そのため、エコーの高さは eTE/T2e^{-\mathrm{TE}/T_2} で決まります。つまりスピンエコーは、T2* の速い減衰を取り除き、真の T2 だけを取り出す仕掛けです。

シミュレーション:スピンエコーの巻き戻し

90° パルスで倒した磁化が扇状に開いて信号が落ち、TE/2 の時点で 180° パルスが自動的に打たれます。扇が畳まれ、TE で信号がエコーとして戻る様子を見てください。TE を長くするとエコーは遅く立ち、そのぶん真の T2 減衰が進むのでエコーは低くなります。T2 を短くしても同じくエコーは低くなります。

等時体の扇(横平面)

信号

02040608010012000.20.40.60.81時間 [ms]信号(相対値)
合成信号T2 包絡線

90° パルスで倒れた磁化は、B0 不均一で扇状に開いて FID が速く減衰する。TE/2 で 180° パルスを打つと扇が反転し、速いスピンが追いつく側へ回って TE で再収束する。これがスピンエコーで、エコーの高さは巻き戻せない真の T2 減衰で決まる。TE や T2 を変えて確かめてほしい。

TR・TE とコントラスト

スピンエコーを一定間隔で繰り返す間隔が繰り返し時間 TR です。TR と TE が、T1 と T2 のどちらの差を画像に写すかを決めます。スピンエコーの信号強度は次式で近似できます。

S=ρ(1eTR/T1)eTE/T2S = \rho \left(1 - e^{-\mathrm{TR}/T_1}\right) e^{-\mathrm{TE}/T_2}

ここで ρ\rho は陽子密度です。(1eTR/T1)(1 - e^{-\mathrm{TR}/T_1}) が T1 の効き(TR が短いほど T1 差が強調される)、eTE/T2e^{-\mathrm{TE}/T_2} が T2 の効き(TE が長いほど T2 差が強調される)を表します。この 2 つを組み合わせると 3 つの実用的なコントラストが得られます。

  • T1 強調(短 TR・短 TE):T1 の短い脂肪が明るく、T1 の長い CSF が暗い。解剖の描出に使う。
  • T2 強調(長 TR・長 TE):T2 の長い CSF や浮腫・病変が明るい。病変検出に強い。
  • 陽子密度強調(長 TR・短 TE):T1・T2 の効きをどちらも抑え、ρ\rho の差を見る。
TR →TE ↑T1 強調PD 強調T2 強調(使わない)

スピンエコーの TR–TE 平面。短 TR・短 TE で T1 強調、長 TR・短 TE で陽子密度強調、長 TR・長 TE で T2 強調。短 TR・長 TE は信号が乏しく通常使わない。

CT のウィンドウとの違い

CT では再構成された 1 枚の画像を、あとから WL/WW を変えて「見せ方」を調整するだけでした。MRI のコントラストは撮像時に決まります。T1 強調と T2 強調は別々のスキャンで、同じ断面でも測っている物理量が違います。だからこそ、目的に応じたシーケンス選択が診断の一部になります。

反転回復と GRE

180° パルスを先頭に置き、磁化を反転させてから撮像するのが反転回復(IR)です。反転から撮像までの反転時間 TI を選ぶと、MzM_z がゼロを横切る組織の信号を消せます。null になる反転時間は TR が十分長ければ TI=T1ln2\mathrm{TI} = T_1 \ln 2 です。CSF を消す FLAIR、脂肪を消す STIR がこの応用で、明るすぎる組織を沈めて病変を際立たせます。

一方、180° パルスを使わず勾配だけでエコーを作るのがグラディエントエコー(GRE)です。180° がないぶん高速ですが、T2* の脱位相を巻き戻せないので、コントラストは T2 ではなく T2* に依存します。小さなフリップ角と短い TR で高速撮像でき、これは次章の高速化にもつながります。

シミュレーション:TR/TE コントラストシミュレータ

脳ファントムに信号式を適用し、TR・TE を動かすとコントラストが入れ替わります。プリセットで代表的な 4 つを試したあと、スライダーを自分で動かして中間を探ってみてください。反転回復モードに切り替えて TI を CSF の null 点付近に合わせると、側脳室だけが黒く沈む FLAIR 像になります。同じファントム・同じ解剖なのに、パラメータだけで見え方がここまで変わります。

再構成像

WL 0.354 / WW 0.708右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

コントラストのプリセット

脳ファントムの T1/T2/PD マップに信号式 S = PD·(1−e^(−TR/T1))·e^(−TE/T2) を適用する。短 TR で T1 強調(脂肪が明るく CSF が暗い)、長 TR・長 TE で T2 強調(CSF・病変が明るい)に切り替わる。反転回復モードで TI を CSF の null 点(≈ 2770 ms)に合わせると FLAIR になり、CSF だけが黒く沈む。

この章の要点

スピンエコーは、TE/2 の 180° パルスで静的な脱位相(T2*)を巻き戻し、真の T2 だけを取り出す仕掛けです。繰り返し時間 TR とエコー時間 TE を選ぶことで、同じ体から T1 強調・T2 強調・陽子密度強調のコントラストを設計できます。反転回復は特定組織を消し、GRE は 180° を省いて高速化と引き換えに T2* コントラストになります。ここまでで「信号を作り・位置を刻み・コントラストを設計する」道具がそろいました。次章は、この撮像をどれだけ速くできるか、その限界と再構成の工夫を扱います。

参考文献

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