CT Lab

第18章 高速撮像と圧縮センシング

k 空間を間引くと撮像は速くなるが像は崩れる。折り返しと非整合アーチファクト、TV による CS-MRI 再構成をシミュレーションで比べる。

MRI の弱点は撮像時間です。標準的な 2DFT では、位相エンコードを 1 行測るたびに TR だけ待つので、撮像時間は概ね TR × 位相エンコード行数 × 加算回数で決まります。数分かかることも珍しくありません。速くする素直な方法は、k 空間の行を間引くことです。行数を半分にすれば時間も半分。問題は、素朴に間引くと画像が崩れることです。この崩れ方の違いが、そのまま再構成の工夫につながります。

アンダーサンプリングとアーチファクト

k 空間の標本間隔 Δk\Delta k は視野を決めていました(第16章)。行を 1 つおきに間引くと Δk\Delta k が 2 倍になり、視野が半分に折り返されます。体の外側にあったはずの信号が反対側へ回り込む折り返し(エイリアシング)です。等間隔に間引くほど、この折り返しは規則正しいレプリカとして重なります。

一方、行をランダムに、しかも中心を密・外周を疎に間引くと、崩れの様子が一変します。規則的なレプリカではなく、画像全体に散らばるノイズ状のアーチファクトになるのです。この「構造を持たない」崩れ方を非整合(incoherent)と呼びます。

フル折り返しなし等間隔間引き折り返し(レプリカ)可変密度ランダムノイズ状(非整合)ky

k 空間の 3 つのサンプリング。フル(全 ky 行)、等間隔間引き(1 行おき→折り返しレプリカ)、可変密度ランダム(中心密・外周疎→ノイズ状の非整合アーチファクト)。CS が働くのは非整合な右のパターン。

シミュレーション:アンダーサンプリングのアーチファクト

k 空間の間引き方を変えて、ゼロ充填(未取得を 0 とみなす)再構成がどう崩れるかを見ます。等間隔 R=2・R=4 では折り返しのレプリカが重なり、間引き率が上がるほど重なりが増えます。可変密度ランダムに切り替えると、崩れがノイズ状に散らばります。次の圧縮センシングが消せるのは、この非整合なノイズ状アーチファクトのほうです。

k 空間(サンプリング)

WL 3.79 / WW 7.58右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

ゼロ充填再構成

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整
取得 25%

k 空間を間引いてゼロ充填で再構成する。等間隔間引きでは折り返し(画像が重なるレプリカ)が現れ、間引き率 R が上がるほど重なりが増える。可変密度ランダムでは、崩れがノイズ状に散らばる。この「構造的でない=非整合な」崩れこそ、次の CS が消せる相手になる。

圧縮センシング MRI

第10章のスパースビュー CT を思い出してください。少ない投影から画像を復元する鍵は、画像が勾配領域でスパースであること、測定が非整合であること、そして非線形な再構成でした。MRI はこの 3 条件を満たしやすい格好の舞台です。MR 画像は区分的に滑らかで勾配がスパース、可変密度ランダムサンプリングは非整合、あとは非線形再構成を回すだけ。これが CS-MRI で、圧縮センシングが最初に大きく花開いた応用です(Lustig ら 2007)。

再構成は、測定した k 空間サンプルと矛盾しない画像のうち、全変動 TV が最小のものを選ぶ最適化です。

minx  TV(x)s.t.FΩx=y\min_x \; \mathrm{TV}(x) \quad \text{s.t.} \quad \mathcal{F}_\Omega x = y

ここで FΩ\mathcal{F}_\Omega はサンプリングした k 空間位置でのフーリエ変換、yy が測定値です。解き方は第10章の ASD-POCS とまったく同じ骨格で、データ整合ステップと TV 降下ステップを交互に繰り返します。CT の順投影・逆投影が、MRI では 2 次元 FFT・逆 FFT に置き換わるだけです。

第10章 CS の骨格がそのまま動く

スパースビュー CT の再構成は「SART でデータ整合 → TV で平滑化」の反復でした。CS-MRI は「サンプルした k 空間を書き戻す → TV で平滑化」の反復です。演算子が Radon から Fourier に変わっただけで、スパース性を使って非整合な崩れを消すという発想は同一です。だから本教材の TV コード(src/core/recon/tv.ts)がそのまま再利用できます。

シミュレーション:CS-MRI 再構成

25% の可変密度ランダムサンプリングから、ゼロ充填(左)と TV 正則化の反復再構成(右)を比べます。反復を進めると、右のノイズ状アーチファクトが消えて RMSE がゼロ充填を大きく下回ります。TV ステップ幅 λ\lambda を上げると平滑化が強くなり、上げすぎると細部が階段状に潰れます。λ=0\lambda = 0 にするとデータ整合だけになり、ゼロ充填のまま改善しないことも確かめてください。

ゼロ充填

WL 0.559 / WW 1.12右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

RMSE 0.0896

CS-MRI(TV 反復)

RMSE 0.0000

0 / 100 反復

同じ可変密度ランダムサンプリング(25%)から、ゼロ充填(左)と TV 正則化 POCS 反復(右)を比べる。反復ごとに「TV で平滑化 → 測定した k 空間サンプルを書き戻す」を交互に適用すると、ノイズ状アーチファクトが消えて RMSE が下がる。第10章のスパースビュー CT とまったく同じ骨格で、順投影の代わりに FFT を使うだけ。λ を上げすぎると staircase 状に過平滑化する。

加速の 3 つの道

k 空間を間引いて速くするアプローチは、大きく 3 つに整理できます。パラレルイメージング(SENSE, GRAPPA)は、複数の受信コイルの感度の違いを使って折り返しを解きます。等間隔間引きにも使えるのが特徴です。圧縮センシングは、非整合サンプリングとスパース性で非整合アーチファクトを消します。そして深層学習は、復元そのものをデータから学びます。第12章で見た画像復元や展開型ネットワークは、MRI の再構成でも活発に研究されています。実機ではこれらを組み合わせるのが主流です。

k 空間を間引く撮像が速くなるパラレルイメージング複数コイルの感度で折り返しを解く(SENSE)圧縮センシング非整合サンプリング+スパース性+TV深層学習データから復元を学習(第12章)

k 空間を間引いて撮像を速くする 3 つの道。パラレルイメージング(複数コイルの感度差で折り返しを解く)、圧縮センシング(非整合サンプリング+スパース性)、深層学習(データから復元を学ぶ)。

この章の要点

MRI の撮像時間は位相エンコード行数に比例するので、k 空間を間引けば速くなります。等間隔間引きは規則的な折り返しを生み、可変密度ランダムは非整合なノイズ状アーチファクトを生みます。圧縮センシングは、後者の非整合性とスパース性を使い、第10章と同じ TV 反復(演算子を FFT に替えたもの)で像を復元します。パラレルイメージングや深層学習と組み合わせることで、実機の高速撮像が支えられています。次章では MRI を離れ、放射線を「出す側」から測る核医学トモグラフィ(PET/SPECT)へ移ります。逐次近似(第8章)がそこで本来の姿を現します。

参考文献

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