第1章 X線と減弱
1 本のレイを動かしながら、Beer–Lambert の法則と「投影」の意味をつかむ。
X 線が物質の中を進むと、光電吸収やコンプトン散乱によって光子が少しずつビームから取り除かれ、強度は通過距離とともに指数関数的に減っていきます。厚さ の均一な物質を透過する場合、入射強度 と透過強度 の間には次の関係が成り立ちます。比例定数 は線減弱係数と呼ばれ、物質の種類と密度、それにX 線のエネルギーで決まる量です。
均一物質の減弱。強度は厚さに対して指数関数的に減少する。
人体のような不均一な物体では、 は場所ごとに異なります。そこで経路 を微小区間 に刻み、各区間の透過率 を順に掛け合わせていくと、指数の肩に の線積分が現れます。これが Beer–Lambert の法則の一般形です。
Beer–Lambert の法則の一般形。指数の肩に経路 L に沿った μ の線積分が入る。
検出器で測れるのは強度比 だけです。しかし、その負の対数を取れば経路上の の線積分 がそのまま得られます。この を「投影(projection)」と呼びます。CT とは、多くの方向から測った投影の集まりを手がかりに、 の空間分布を復元する技術です。
CT 値(Hounsfield 単位)
なお臨床の CT 画像では、 をそのまま表示する代わりに、水を基準として規格化した CT 値(Hounsfield 単位, HU)が使われます。水が 0 HU、空気が −1000 HU、緻密骨はおよそ +1000 HU です。
実際の装置ではどう測るか
X 線管では、高電圧で加速した電子を金属ターゲットへ衝突させ、制動放射と特性X 線からなるスペクトルを発生させます。管電圧(kVp)は主に光子の最大エネルギーとスペクトルを、管電流時間積(mAs)は主に光子数を変えます。患者の前に置く bow-tie filter は、薄い周辺部へのX 線を減らし、線量と検出器入射強度を均します。
従来の CT 検出器は、X 線をシンチレータで可視光へ変え、フォトダイオードで積分します。測定前にはX 線を当てない dark 測定と、被写体を置かない air 測定を行い、検出器ごとのオフセットとゲインを補正します。第11章のリングアーチファクトは、この校正が不完全な場合の一例です。本章の は air 測定、 は被写体を通した測定に相当します。
シミュレーション:1 本のレイの線積分
選んだファントム( の分布)に 1 本のレイを重ねています。角度 と検出器位置 を動かすと、レイ上の プロファイル、線積分 、透過率 が連動して変わります。Shepp-Logan ファントムの外殻など、減弱の大きな領域を横切ると は増え、透過率は急に下がります。自由描画タブでは任意の 分布を試せます。
ファントム
レイ(θ, s)
レイに沿った μ プロファイル
ファントム上のレイ(θ, s)。右にレイに沿った μ プロファイルと、線積分 p・透過率 I/I₀ の読み値を示す。
投影からサイノグラムへ
投影 は、レイに沿った減弱係数の線積分です。1 本のレイから得られるのは 1 つの値だけなので、CT ではレイを並べて投影プロファイルを作り、それを複数の角度で測ります。次章では、この測定値をサイノグラムとしてまとめます。
参考文献
- Hounsfield GN. Computerized transverse axial scanning (tomography): Part 1. Description of system. British Journal of Radiology 46, 1016–1022 (1973).
- Bushberg JT et al. The Essential Physics of Medical Imaging, 4th ed. Wolters Kluwer (2020).