第2章 順投影とサイノグラム
Radon 変換を通して、物体が測定データ(サイノグラム)に写る仕組みを見る。
前章で見たのは 1 本のレイの線積分 でした。角度 を固定したまま検出器位置 を一様に走らせると、 の関数として 1 次元の投影プロファイル が得られます。すべてのレイが平行なので、この撮影方式を平行ビーム投影と呼びます。物体 を全角度・全位置の線積分に写す変換が Radon 変換です。次の式では、 関数が直線 上の積分を選び出す働きをしています。
Radon 変換。δ 関数が「直線 x cosθ + y sinθ = s 上の積分」を選び出している。
を 0° から 180° まで回しながら投影を集め、横軸 ・縦軸 の 2 次元画像として並べたものがサイノグラム(sinogram)です。平行ビームでは が成り立つので、180° 分で情報は一周分そろいます。CT 装置が実際に測定する生データはこのサイノグラムであり、再構成とはここから を復元する処理を指します。
サイノグラムという名前の由来
名前の由来は「正弦曲線(sine)」です。位置 にある 1 点は、角度 の投影では の位置に写ります。 の関数として見れば、振幅 ・位相 の正弦曲線です。物体は点の集まりですから、サイノグラム全体は無数の正弦曲線の重ね合わせになります。
1 点が描く軌跡は正弦曲線。サイノグラムという名前はここから来ている。
シミュレーション:スキャンとサイノグラムの成長
角度スライダーを動かすと、左のファントム上のレイ束(現在の投影方向)と右上の投影プロファイル が連動します。「スキャン」を押すと角度が自動で進み、右下のサイノグラムが上から 1 行ずつ埋まっていきます。まずは点ファントムでスキャンを一周。サイノグラムに正弦曲線がちょうど 1 本だけ現れます。Shepp-Logan に切り替えると、多数の正弦曲線が重なり合う様子が見えてきます。
ファントム
ファントムとレイ束
投影プロファイル p(θ, ·)
サイノグラム p(θ, s)
現在角度のレイ束と投影プロファイル p(θ,·)。下は 1 行ずつ成長していくサイノグラム。
順投影と逆問題
サイノグラムは、各角度の投影プロファイルを並べた 2 次元データです。物体内の 1 点は、その中に正弦曲線を描きます。ここまでは物体から測定値を求める順投影でした。次章では逆に、測定値をレイに沿って戻す単純逆投影を扱います。ただし、そのままではボケた像になることも見ます。
参考文献
- Radon J. On the determination of functions from their integral values along certain manifolds. IEEE Transactions on Medical Imaging 5, 170–176 (1986) — 1917 年論文の英訳。
- Kak AC, Slaney M. Principles of Computerized Tomographic Imaging. IEEE Press (1988).