CT Lab

第3章 単純逆投影(SBP)

測定値を塗り戻すだけの再構成がなぜ 1/r のボケを生むのかを確かめる。

サイノグラムから画像へ戻る、いちばん素朴な方法から考えます。測定値 p(θ,s)p(\theta,s) が教えてくれるのは「そのレイの経路上に減弱がこれだけあった」ということだけで、経路上のどこにあったかは分かりません。そこで各測定値を、レイの経路全体へ一様に「塗り戻し」ます。1 方向だけでは筋状の像にしかなりません。しかし全方向分を足し合わせると、実際に物体があった場所ほど多くのレイの値が重なり、値が高くなります。これが単純逆投影(simple backprojection, SBP)です。式で書くと、SBP 像 b(x,y)b(x,y) は、画素 (x,y)(x,y) を通るすべてのレイの測定値を足し合わせたものです。

b(x,y)=0πp(θ,  xcosθ+ysinθ)dθb(x, y) = \int_0^{\pi} p\bigl(\theta,\; x\cos\theta + y\sin\theta\bigr)\, d\theta

ところが SBP 像 b(x,y)b(x,y) は元の μ(x,y)\mu(x,y) に一致しません。1 点だけの物体を考えてみましょう。各角度の逆投影はその点を通る直線を 1 本ずつ塗るため、少数の角度では星状(放射状)のアーチファクトになります。角度を増やして連続極限をとると筋は滑らかにつながりますが、点像には中心から 1/r1/r で減衰する裾が残ります。つまり SBP は、真の画像に点像分布関数(PSF)1/r1/r を畳み込んだものです。

b(x,y)=μ(x,y)    1r,r=x2+y2b(x,y) = \mu(x,y) \;{*}{*}\; \frac{1}{r}, \qquad r = \sqrt{x^2 + y^2}
1 投影4 投影:星状アーチファクト多数の投影 → 1/r の裾

単純逆投影。画素(x,y)を通るすべてのレイの測定値を足し合わせる。

0.050.10.150.20.250.30.350.40.450.520406080100120140160180200中心からの距離 rPSF ∝ 1/r

SBP の点像分布関数 1/r。投影数を増やしても消えない系統的なボケ。

投影数を増やしてもボケは消えない

肝心なのは、この 1/r1/r のボケが投影数をいくら増やしても消えないという点です。投影を増やして改善するのは筋状アーチファクトの滑らかさだけ。低周波成分が過大に強調されるという構造的な問題は、そのまま残ります。ボケを取り除くには、逆投影の前に投影データへ高周波を強調する「フィルタ」を掛ける必要があります。それが次章のフィルタ補正逆投影(FBP)です。

シミュレーション:投影数と SBP 像

投影数スライダーで、0〜180° に均等配置した kk 本の投影だけを使った SBP 像を観察します。まず点ファントムを選び、投影数を 1 → 2 → 8 と増やしてみてください。少数のうちは、点を通る直線が重なった星状アーチファクトが見えます。180 本まで増やすと星は消えますが、点は鋭い点には戻りません。1/r1/r の裾を引いた、ボケた円盤のままです。Shepp-Logan でも全体が霞んだ低コントラストの像にしかならないことが確認できます。「スキャン」ボタンを押すと、投影が 1 本ずつ積み上がるアニメーションが再生されます。

ファントム

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

サイノグラム(使用分のみ)

計算中…

SBP 再構成像

計算中…

使用中の投影のみを残したサイノグラムと、その k 本の投影による SBP 再構成像。

単純逆投影に残るボケ

単純逆投影は、測定値をレイに沿って塗り戻して足すだけの再構成です。得られる像は真の画像と 1/r1/r との畳み込みで、星状アーチファクトは投影数を増やせば消えるのに対し、1/r1/r のボケは何本集めても残ります。原因は低周波数成分の過大評価にありました。解決策は、逆投影の前に投影プロファイルを高域強調フィルタで補正すること。次章でこのフィルタ補正逆投影(FBP)を導きます。

参考文献

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