CT Lab

第5章 ファンビームとヘリカルCT

ファンビームの幾何学と再構成、臨床 CT で使われるヘリカルスキャンと pitch を扱う。

ここまでの平行ビーム投影は、1 本のレイを測るたびに線源と検出器を並進させ、それを全角度で繰り返す方式(第 1 世代 CT)を前提としていました。この方式では 1 断面の撮影に数分かかります。線源から扇状(ファン)に広がるビームと多素子検出器を使えば、1 つの線源位置で 1 方向分の投影が一度に得られ、線源と検出器を回転させるだけで全データがそろいます(第 3 世代 CT)。現在の臨床 CT はこの方式が基本で、1 回転は 1 秒を切ります。

まずジオメトリを定義します。線源はアイソセンタ(原点)を中心とする半径 DSOD_{\mathrm{SO}} の円軌道上を線源角 β\beta で回り、S=DSO(cosβ, sinβ)S = D_{\mathrm{SO}}(\cos\beta,\ \sin\beta) に位置します。実際の検出器は線源の反対側にありますが、計算にはアイソセンタを通るように縮小した仮想検出器(フラット)を使うと便利です。仮想検出器上の位置 uu に向かうレイが中心レイ(線源から原点へ向かうレイ)となす角がファン角 γ\gamma です。

S=DSO(cosβ, sinβ),γ=arctan ⁣uDSOS = D_{\mathrm{SO}}(\cos\beta,\ \sin\beta), \qquad \gamma = \arctan\!\frac{u}{D_{\mathrm{SO}}}

ファンビームの 1 本 1 本のレイは、見方を変えれば、どれかの平行ビームレイ (θ,s)(\theta, s) と同じ直線です。本教材の規約では θ=β+π/2γ\theta = \beta + \pi/2 - \gammas=DSOsinγs = D_{\mathrm{SO}}\sin\gamma という対応になります。したがってファンサイノグラム (β,u)(\beta, u) を平行サイノグラム (θ,s)(\theta, s) の格子に補間で並べ替えれば、前章までの平行ビーム FBP がそのまま使えます。この並べ替えをリビニング(rebinning)と呼びます。

θ=β+π2γ,s=DSOsinγ\theta = \beta + \frac{\pi}{2} - \gamma, \qquad s = D_{\mathrm{SO}}\sin\gamma
仮想検出器ファンレイ(β, γ)u線源βγsθ同じ直線の平行ビーム表現(θ, s)θ = β + 90° − γs = DSO·sinγ

ファンレイと平行レイの対応。各ファンレイは、ある平行レイと同一直線上にある。

リビニングを経由せず、ファンサイノグラムから直接再構成する FBP も導出できます。手順は 3 段階です。(1)各検出器値にコサイン重み DSO/DSO2+u2D_{\mathrm{SO}}/\sqrt{D_{\mathrm{SO}}^2 + u^2} を掛ける。(2)行ごとにランプフィルタを畳み込む。(3)ピクセルごとに距離重み 1/U21/U^2 を掛けながら逆投影する。ここで UU はそのピクセルの線源からの奥行き(中心レイ方向)を DSOD_{\mathrm{SO}} で規格化したもの、uu^* はピクセルを通るレイが仮想検出器に当たる位置です。フルスキャン(2π2\pi)では各レイが 2 回測られるため、係数 1/21/2 が付きます。

f(x,y)=1202π1U2  q(β,u)dβ,q(β,)=[DSODSO2+u2  p(β,u)]hf(x,y) = \frac{1}{2}\int_0^{2\pi} \frac{1}{U^2}\; q\bigl(\beta,\, u^*\bigr)\, d\beta, \qquad q(\beta,\cdot) = \left[\frac{D_{\mathrm{SO}}}{\sqrt{D_{\mathrm{SO}}^2 + u^2}}\; p(\beta, u)\right] * h U=DSOxcosβysinβDSO,u=DSO(xsinβ+ycosβ)DSOxcosβysinβU = \frac{D_{\mathrm{SO}} - x\cos\beta - y\sin\beta}{D_{\mathrm{SO}}}, \qquad u^* = \frac{D_{\mathrm{SO}}\,(-x\sin\beta + y\cos\beta)}{D_{\mathrm{SO}} - x\cos\beta - y\sin\beta}

シミュレーション:ファンビームのジオメトリ

円軌道上の線源(橙)から仮想検出器(紫)へ向かうレイ束を表示します。β\beta スライダーか再生ボタンで線源を回し、DSOD_{\mathrm{SO}} スライダーで線源を近づけたり遠ざけたりしてみてください。DSOD_{\mathrm{SO}} を小さくすると、同じ検出器幅でもファン半開角 γmax\gamma_{\max} が大きくなり、FOV(青い円)を覆いやすくなります。その代わり、ビームの発散(幾何学的な歪み)は強くなります。

ファン半開角 γmax=arctan(umax/DSO)\gamma_{\max} = \arctan(u_{\max}/D_{\mathrm{SO}})20.2°

橙 = 線源、紫 = 仮想検出器、青 = FOV、破線 = 線源軌道、水色 = レイ束

シミュレーション:ファンサイノグラムとリビニング

選んだファントムのファンビームサイノグラム(β×u\beta \times u、360°)、それを平行ビーム格子(θ×s\theta \times s、180°)へリビニングした結果、そして直接計算した真の平行ビームサイノグラムの 3 つを並べています。リビニング結果が真の平行サイノグラムとほぼ一致することを確認してください。点ファントムを選ぶと、ファンサイノグラム上の軌跡が純粋な正弦曲線からわずかに歪む様子(γ\gamma の非線形性)も観察できます。

ファントム

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

ファンサイノグラム p(β, u)

計算中…

リビニング後(θ × s)

計算中…

真の平行サイノグラム

計算中…

ファンサイノグラム(β × u)、平行格子へのリビニング結果、直接計算した平行サイノグラム。

シミュレーション:直接ファンビーム FBP

ファンサイノグラムから直接 FBP(Ram-Lak)で再構成します。投影数(β\beta の本数)と DSOD_{\mathrm{SO}} を変えると画質はどう変わるでしょうか。平行ビーム FBP(180 投影)との比較も並べてあります。フルスキャン(2π2\pi)のファンビームは各レイを 2 回ずつ測るため、360 投影で平行 180 投影とほぼ同等の情報量になります。RMSE は FOV 中心 90% の円内で真のファントムと比較した値です。

ファントム

WL 0.500 / WW 1.00右ドラッグ / Shift+ドラッグ:WL/WW調整

ファンビーム FBP

計算中…
RMSE(対 真値)

平行ビーム FBP(180 投影)

計算中…
RMSE(対 真値)

直接ファンビーム FBP(左)と平行ビーム FBP(右)の再構成像。

ヘリカル CT とピッチ

臨床 CT では、線源を回転させながら寝台を連続移動させるヘリカルスキャンが基本です。線源の軌跡は患者の周囲をらせん状に進み、1 回の息止めで広い範囲を撮影できます。1 回転で寝台が進む距離を、全検出器列の公称ビーム幅で割った値が pitch です。

pitch=1回転あたりの寝台移動量全検出器列の公称幅\text{pitch} = \frac{\text{1回転あたりの寝台移動量}}{\text{全検出器列の公称幅}}

pitch を大きくすると同じ時間で広い範囲を撮れますが、z 方向のサンプリングは粗くなります。一定の管電流で比較すれば線量もおおむね下がります。実機はらせん上の測定から目的の断面を補間し、任意の再構成間隔で画像を作ります。

混同しやすい 3 つの量

取得時の検出器コリメーション、再構成画像のスライス厚、画像を並べる再構成間隔は別の量です。再構成間隔を短くしても、取得データが持つ z 方向分解能そのものは上がりません。

ファンビーム再構成の要点

ファンビームは 1 回転で全投影を集める実用的なジオメトリです。各レイはファン角 γ=arctan(u/DSO)\gamma = \arctan(u/D_{\mathrm{SO}}) を介して平行ビームレイ (θ,s)(\theta, s) と 1 対 1 に対応するため、リビニングすれば平行ビーム FBP をそのまま再利用できます。コサイン重み・ランプフィルタ・距離重み付き逆投影からなる直接ファン FBP も、同等の像を与えます。次章では検出器を 2 次元に広げます。ファンがコーンになったとき、新しく何が起きるでしょうか。

参考文献

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